
黒柳徹子著「窓際のトットちゃん」の英語版です。日本語版は多分20年~30年くらい昔に書かれており、発売当時は年間450万部のベストセラーだったと後書きに書かれています。
私は当時この本を日本語で読み、大変感銘を受けました。その後3,4年ほど前に英語翻訳版を見つけて買いましたが、長年埃をかぶって「つん読」状態だったのをふと思いついて今回読んでみました。家の中を探してみればオリジナルの日本語版もどこかにあるはずです。 戦前に実在した「トモエ学園」が舞台になっています。
いわさきちひろのふんわりした挿絵がこの本の雰囲気にぴったりマッチしています。
個性を伸ばす教育、考える力をつける教育、ゆとりある教育が求められながら、教育の現場では実践が難しい。ここには夢の教育があります.
黒柳徹子こと「トットちゃん」は小学1年生で退学になってしまいます。好奇心の強さから次々とトラブルを引き起こしてしまうからです。今で言うADHD(注意欠陥、過活動性、多動性障害)というものだったのではないかと思います。
例えば、小学校の机は引き出しのかわりにてっぺんのふたが開き勉強道具が入れられるようになっています。今の小学校ではもうそんな机はないようですが、私の子供の頃はそんな机だったと懐かしく思い出されます。(私、「一体いつから生きてるの?」と聞かれることもしばしばです。)
トットちゃんはその机が珍しく、ふたをバタン、バタンと開けたり閉めたりする。先生は「用事があるときだけ開けなさい」とおっしゃる。すると今度は「あ」を書く鉛筆を出すために開ける、「あ」を書き終わると今度は「い」の鉛筆、間違えるとその都度消しゴムを出し入れする、そうやってふたをパタン、パタンと開け閉めし、それに飽きると今度は教室の窓辺に立つ。
そして通りに「チンドン屋さん」がやって来るのを見つけると、「チンドン屋さ~ん」と大声でチンドン屋さんを呼び、学校中が大騒ぎになる。英語では "street musicans" 書かれていましたが、これも私の世代には懐かしいものです。本当に私がごくごく小さかった頃だけの記憶ですが、派手な衣装を着て派手な音楽でチンチンドンドンという音を出しながら店の宣伝などをして歩く「チンドン屋さん」がいたのを懐かしく思い出します。
話だけ聞けばほほえましくかわいらしいエピソードばかりだけれど、学校としては統率が取れずトットちゃんは確かに「問題児」だったことと思います。
退学になったトットちゃんが次に行った小学校が「トモエ学園」でした。トモエでは全てが前の学校と違っていました。生徒数は全校合わせてたった50人。勉強もその日やることだけは決まっていて課題が全部終われば自由時間。座席も決まってはいない。その日の課題が全員終われば、みんなで散歩に出かけたり、その中で子供達は自然の営みを学ぶ。
校長先生は初めて会った時、トットちゃんの話を4時間もの間、熱心に耳を傾けて聞きます。4時間もの間そうやって熱心に聴き続けられる大人(ならずとも子供でも)はどれほどいるでしょう?また、4時間もしゃべり続けるトットちゃんも驚異的です。
校長先生はどの子に対してもそうやって真剣に向き合うのです。「トモエ学園」はこの学校を作った小林校長の夢の学校でした。自由であること、偏見がないこと、個性を伸ばすこと、自主性を伸ばすこと、生徒を信頼し自信を持たせること。
校長先生はいつもトットちゃんに「君は本当にいい子なんだよ」と言い続け、トットちゃんは無邪気に「はい、私はいい子です」と答えた。この言葉がおそらく彼女の人生を決定するものだったのです。
後書きで黒柳徹子さんが言っている通り、もし小林校長に会うことがなかったら、トットちゃんは「悪い子」のレッテルを貼られコンプレックスでいっぱいの大人になっていたでしょう。それと同時にトットちゃんのご両親のトットちゃんへの接し方もすばらしいものだと思いました。
校長先生の小林宗作氏は理想の教育を実現するために何年もヨーロッパで教育現場を見て研究を重ね、1937年にトモエ学園を設立しついに夢の学校を建てました。しかし1945年の東京空襲で全て焼け落ちてしまいます。炎に包まれる学校を見ながら彼はそばに呆然と立ち尽くす息子「ともえ」に言う、「今度はどんな学校を建てようか?」と。彼の教育への情熱は燃えさかる炎より強かったのです。
小林宗作氏の理念は今も古びていないどころか、今まさに求められているものだと思います。全ての教育者、全ての親達、全ての人に読んでもらいたい本です。子供にとっても素適な読み物になることでしょう。
ちなみに彼は日本にリトミックを導入した人であり、現在の国立音楽大学、幼稚園の設立に助力をした人でもあるそうです。また同じくトモエ出身でトットちゃんの初恋の人「タイちゃん」は著名な物理学者として活躍しているそうです。(20年か30年前の話ですが。)
英語版は Dorothy Britton さんの訳で大変美しい英語になっています。やさしい英語で書かれているので、比較的読みやすいのではないかと思います。
最近のコメント