フォト
2020年8月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
無料ブログはココログ

« 海辺のドライブ | トップページ | 圧力鍋復活!! »

2009年8月 9日 (日)

"The Soloist" その2

Soloist


"The Soloist" by Steve Lopez
出版社 Berkley
300ページ

以前、この本のイントロの部分の紹介をしているので若干重複する部分もあります。

作者はロサンゼルス・タイムズ(新聞)のコラムニストであるスチーヴ・ロペス。コラムのネタを求めて東西奔走していた彼はある日ロサンゼルスのダウンタウン路上で、ぼろをまとい陶酔しきってベートーベンを弾いている黒人のバイオリニストに遭遇する。お金のために弾いている様子も全くない。よく見ればバイオリンに弦は2本しかなかった。男の名はナサニエル・エアーズ。かつてはジュリアード音楽院の学生だったとわかる。

35年経った今もジュリアードに残されたナサニエルの記録をひも解けば、そこには前途有望な夢と才能にあふれた若き音楽家の姿が見えた。同級生にはヨーヨー・マがいたが、二人は同じオーケストラでともに演奏していたこともあったのだった。彼がジュリアードから脱落した理由は統合失調症、かつては精神分裂と呼ばれた精神病を発症したことだった。

この本を読み統合失調症というのがどういうものか知ることになりました。大変複雑な病気で治療に必要なのはひたすら周囲の忍耐です。ロペスはコラムのネタを求めて彼に近づいたのだが、強く彼に惹かれやがて仕事の範囲を超え、路上生活から彼を救い、病気を治したいと思うようになります。そのことにより彼の人生は思わぬ忍耐と苦渋を強いられることになります。

ナサニエルが発病した1970年代当時の精神病患者に対する扱いは手錠、薬物、幽閉と言ったものでした。あくまでも路上生活に執着するナサニエルを自分の意志で建物の中に入れようとすることは賽の河原で小石を積むが如くでした(ちょっと比喩が純日本風になってしましましたが)。一歩前進の勝利の後に来る落胆。ロペスが勝利の感動に浸る時、私も全身鳥肌が立つ感動を覚え、またその後に来る落胆や失望には共に打ちのめされる思いでした。

この本の中で特筆すべきは二人の間に育っていく友情です。この二人の間にはいわゆる普通の会話というものはありません。住む世界はあまりにかけ離れているからです。

・・・・Come to think of it, Nathaniel and I don't really have conversations. Mostly he talks or plays music and I listen. He can't relate to my world and I have trouble relationg to his.

And yet for all that, he's changed my chemistry, too.

No, we don't have too many so-called normal conversations. Buyt what's normal? I hold his hand in mine, and neither os us needs to say a thing.・・・・

という部分があります。二人が互いに共感するところはない、しかし、すべてを超越し包み込むような友情の深さに心を動かさずにはいられません。

ナサニエルを救おうとするうちに、ロペスは自分自身が救われるのを感じます。彼の中で何かが目覚めていきます。ナサニエルにとって音楽は神であり、愛であり、彼の存在のすべてだ。そのひたむきな姿の中に、自分の信じるものに対し自分を捧げて生きるという人間としての尊厳を学ぶのでした。

ロサンゼルスとと言えばアメリカ第二の都市ですが、その華やかな市中心部にスラム街があると言うアメリカの暗黒の一面を見ました。街には精神病患者、麻薬、暴力、犯罪があふれています。文面からもスラムのすさまじい様相が伝わってくるのですが実情はいかばかりでしょう。ナサニエルのコラムを読むことにより人々の関心が高まり、事態は少しずつ向上してきたと言うことですが、まだまだ道のりは遠いようです。そしてこの二人の行く手にもまだまだ困難が待ち受けていることでしょう。

この本は実話です。作り物にはない実話の持つパワーに、一つ一つのエピソードの重さがずっしりと伝わってきます。

もう一つ驚くべきことはナサニエルが正式にジュリアードで学んだ楽器はコントラバス(string bass)でした。ロペスの書いた路上のバイオリニストのコラムに感銘を受けた人達が彼にバイオリン、チェロ、ピアノなどを送ってくるようになりました。どの楽器でも彼は弾きこなしてしまうのです。この病気がなかったら彼はおそらくヨーヨー・マと並ぶ音楽家になっていたことでしょう。本の最後の方で彼は約30年間ぶりにコントラバスとの再会を果たします。

・・・"This is huge,"Mr. Ayers says, getting reacquainted after roughly thirty years of playing violin and cello.
He's right. The bass is so big it makes him look tiny, like the kid who fell in love with the instrument in Mr. Moon's middle school music class.

I've waited almost two years to hear this," I tell him.・・・

この最後の部分も実に良かった。鳥肌が立ちました。この本は私にとってかけがえのない1冊になりました。

ロペスの簡潔で洗練された無駄のない美しい文体は私はとても好きなのですが、出てくる語彙もレベルが高いものが多く、ある程度ペーパーバックを読みなれた方にお勧めの一冊です。すでに映画化され、日本語の翻訳も出ているようです。

« 海辺のドライブ | トップページ | 圧力鍋復活!! »

3.英語の本(原書)」カテゴリの記事

コメント

これで二回目、読んだよ。聡明な文章にいつも感心させられます。
映画になるのが楽しみです。

二回と言わず、何度でもお待ちしています。

私も映画見たいです。でも見たくないような・・・
好きな本が映画化されるときにはいつもジレンマです。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 海辺のドライブ | トップページ | 圧力鍋復活!! »